2007年4月19日木曜日

廃墟礼賛


熊野地方は辺境の地である。しかし、日本地図を頭に浮かべてみると必ず熊野地方はその一部分を成しているのである。それは熊野地方が日本の辺、すなわち海岸線を伴うからである。広い海に紛れて闇夜に隣国からの逃亡を果たそうと一縷の望みを持って上陸しようとやって来る辺境の地でもあった。




そんな海に迫る山と国道の他、何も無い辺境の地に廃墟がひっそりと草草に囲まれて隠れていた。看板は酷く錆びて1つ欠けてはいるが天然温泉であったと読み取れる。かつて、40年代初頭の車旅行が一般的になってきた頃の遺物であったと思われる。そうすれば30年位此処に放置されていることになる。外観は特に変哲も無い。1つの建物の中に足を踏み入れてみる。最初はよく分からなかったが、暫く見てみるとここはかつて食堂であったことがよく分かる。割と広く、打ち捨てられた厨房施設が残骸となって残っており、前面の外れた縦型クーラー、錆びたストーブ、昔のレジスター、浮浪者が捨てたろう割と古くない衣類も朽ちたような布団の上にあった。最初は廃墟なんて癒しに相応しくないだろうと思い、シガーを吹かす事もないと思っていた。しかし、この朽ち果て様は何とゆうか、天井から屋根にかけて部分的に欠けている様や、窓ガラスが無くそのガラスが天井から落ちたであろう板とか何やらいろいろな物との散在のしかたとか、その朽ち果て様が絶妙なのである。自然と30数年かけて朽ち果てた熟成の感が感じられたのである。それはあたかもエイジドシガーに通ずるものかもしれないと思ったのだった。そこで我々はシガーを吸うことにした。廃墟の置き去りにされた空間と時間への餞にシガーを吹かす。廃墟礼賛。

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